龍 神 塚

 八百年ほどむかし、源氏と平氏が戦っていました。
 ある夜ふけのことです。
 谷村の道を、白い馬が、傷ついてぐったりしたさむらいを乗せて、通りかかりました。
「何事だ。こんな夜中に」
「あのおさむらい、まだ若そうじゃねえか、ひでえけがをして」
「あれえ、馬の首に矢が……。おそげえこった」
 村人たちは、おそるおそる戸のすき間からのぞいて、つぶやいていました。でも、だれ一人助けようとはしませんでした。
 馬は、よろよろと力なく歩き、おさとの家の前まで来ると、もう動くことができません。
「ヒ、ヒイーン」
 馬は悲しそうにいななくと、ガックリとたおれてしまいました。
 おさとは、びっくりして飛び出しました。
「おさむらいさん!しっかりするだ」
 さむらいのかたをゆすりましたが、返事はなく、ぐったりしています。
「おっかあ!おっかあ!はやく水を持って来ておくれ」
 おどろいたおっかさんは、急いで手おけの水を持って来ました。
「さあさあ、飲めや」
 さむらいも馬も、水を飲むのがやっとでした。
 おさとは、追手が来るかと心配になって、裏の物置小屋にかくまうことにしました。
 おさとの家は、貧しい暮らしでした。
 それでも、気のやさしいおさとは、さむらいや馬をほうってはおけません。
 仕事の合間をぬって、一生けん命看病しました。
「龍神丸……、龍神丸……」
 うわごとばかり言う日が続きました。
 しばらくして、気がついたさむらいは、真っ先に馬を探しました。
「龍神丸はどうしました。無事ですか」
「それが……。馬はとうとう……」
「死んでしまったのですか!」
 さむらいは、声をころして、うつむいたままこぶしをにぎりしめていました。

 傷がすっかり治ったというのに、さむらいは、まるでたましいがぬけたようです。おさとは、だんだん心配になってきました。
「なあ、おさむらいさん、元気を出しなよ」
「はい……。龍神丸は、戦いでなくなった父の形見なのです」
「そんなに大事な馬だったのかえ」
「何度も私の命を救ってくれました。今度も、私を守るために、敵の矢を自分の体で受けたのです。この先、わたしはどうすればいいのか……」
「それじゃ、しっかり供養してあげるといい」

 さむらいは、龍神丸のために、りっぱなお墓を建ててやりたいと、何日も何日もかけて、一心に石をきざみました。
 やがてお墓ができあがると、お礼に、昼は野ら仕事を手伝い、夜はわらじを作って、おさとの家を助けました。
 こうして働きながらも、龍神丸のお墓参りは一日も欠かしたことはありませんでした。

 いつしか、一年の月日がたとうとしていました。
 ある夜、さむらいは龍神丸をしのんで夜空をながめていました。すると、
「ヒ、ヒイーン」
 龍神丸が、うれしそうにいななき、大空へかけ登って行くのが見えました。

 その後、さむらいは出家して、両親や龍神丸、戦でなくなった人のために、この地で一生をささげました。

  *追手 ……… にげて行く者を追いかける人。
  *出家 ……… ふつうの生活をやめて、お坊さんになること。


〔 解 説 〕

 東幡豆小学校から百数十メートルほど東の旧国道沿いに小さな塚がある。その古い塚は龍神塚と呼ばれ、一頭の白い馬を葬ったものといわれている。
 現在、塚の上には、高さ七十センチほどの石柱の碑が立っている。「昭和七年十二月、鈴木源作建立」と彫り込まれている。
 生来病弱だったむすこを心配して、ある占師の言葉に従い、塚の供養のために建てたものだという。むすこは、その後元気になったと聞いている。


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